個歯(こし)トレー印象法とは


被せ物(冠)やつめ物(インレー)の型どり(印象)するときにその患者さん用に作った小型の印象用トレー(型枠)を使用する方法のことです。この方法は当院の目指す『再発の無い医療』のために行われている治療法の一環で、とても大切な治療法です。

 

下の画像のような形をしたトレーで、プラスチック(常温重合レジン)でつくったものをレジン個歯トレーといいます。一般的には、歯の土台の形を整えて、被せ物の型をとるときにはその場で既製のトレーで型採りをします。
しかしこの方法ではその場ではすぐに型は採れません。
この方法を使用すれば下記のように計り知れないメリットが有りますが一般診療所ではもちろん、大学病院ですら殆んど使用されていません。その理由として、時間がかかる、難しい、うまく採れない、コストが合わない、面倒くさい・・・・・です。もっともこの印象法はずっと以前から有りましたが、当時からそのような理由付けで日常の診療にルーチンで使っている歯科医師は稀でした。

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上から見たところ
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 個歯トレー印象法の利点は仮歯に似た形をした枠で削ったところと削っていないところの境界線を確実に型採りできることです
     
 印象材はどのような材料を使っても、それが固まるときに大小はあれ寸法変化は避けられま せん。印象材の量に比例して寸法変化はどんどん大きくなります。寸法変化が多ければ多いほど型の精度が悪くなる=その印象に石膏を流し込んで出来上がった 模型が歯の形を精密に再現出来ていない=その上で作るかぶせ物やつめ物の精度が悪い=かぶせた歯との間にすきまが出来る=長持ちしない。
すなわち、既製の型取りの枠では印象材の厚みが大きく(場所によっては10mm以上!)おまけに場所によって厚みがまちまちのために、いろんな方向に印象材同士が押しくらまんじゅう(または引っ張りあい )をして寸法変化が大きくなります

既製のトレーで採った印象からトレーの部分を外した状態です
このように厚さが大きく、
周りのシリコン印象材の厚さが場所によってまちまちです
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既製のトレー(周りのピンクの部分です)を付けたまま切断模型を作りました.上の画像と同様に厚さがまちまちなのが分かります.
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しかし個歯トレー法を使えば下の画像のように印象材の厚みがうすくかつ均等に出来る(約1mm前後)ために寸法精度が格段に高いという長所があります。


          
 個歯トレーの断面
(切断してみました)
 印象材(紫色)の厚みが均等で薄いのが分かります

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トレーから外した使用済み個歯トレーの山,自費の修復物は全てこの方法で印象しています.


 

 


この方法でおこなうためには当院では―
1日目

  1. 土台の形を整える(慨形形成)
  2. 連合印象(寒天・アルジネート印象)で個歯トレーのための型どりをする
    その日は仮歯を付けてそれで終わり
  3. 技工所でその模型上で個歯トレーを作る(模型上であらかじめ作っておく事が重要なのです。何故なら、個歯トレーの材料である常温重合レジンもやはり固まる時に重合収縮します。それを1週間以上おく事により、内部応力の開放ができるのです。2日目の行程7で内面にプラスチックを入れて歯に圧接する時は量的に最小限である事と,当日内面を最終的に削るので歯の形成面の境界部のみのごく少量となる為、無視しうるのです)

2日目
  1. 一次歯肉圧排をする
  2. マイクロスコープを使って精密に土台を最終的な形に整える
  3. 二次歯肉圧排をする
  4. 個歯トレーを土台に精密に合わせるために内部に歪みの少ない特殊な常温重合レジンを流し込みそれを歯に圧接する
  5. 個歯トレーと土台との間に印象材が入るだけのすきまを作る為に内面を均等に1mm前後削る。
  6. 個歯トレーとシリコン印象材で精密印象をする
  7. その上から全体のカスタムトレーとシリコン印象材で全顎印象をする
  8. 真空埋没装置で超々硬石膏を練り泡の最小の模型を作る
  9. 技工士さんは必ずマイクロスコープを使い被せ物を精密に作る
    (そのような仕事をする技工所にしか出していません)

3日目
 13. 装着時はマイクロスコープで適合状態を確認する
14. 噛み合わせの調整時にもマイクロスコープを使用する
 15. 硬化後のセメントを取り除くときに、マイクロスコープで取り残し をチェックする

つめ物(インレー)の場合はもう一日かかります
4日目
 16. 金属と歯との接点(ふち)を伸ばして歯に密着させる工程(マジックマージン)をマイクロスコープを使用して行います。
    この工程が非常に大切で、ただ単に金合金でつめものをしただけでは光りものが詰まっただけで金合金のメリットは有りません。1本の歯に約30分近くかかるため後日予約を取っていただきます・・・・・・・という非常に煩雑な過程を経ます。
保険診療では
1日目
土台の形を整える
  1. その日に既成の金属の枠(トレー)で連合印象(寒天+アルジネート連合)印象で型どりをする(歯肉圧排はしない)
  2. 硬石膏または超硬石膏で模型を作る
  3. 技工はマイクロスコープは使わないで流れ作業的に作られる
2日目
  1. 装着時はマイクロスコープを使用しない                                                                                                                                                                                                                        歯型を簡単に取ろうと思えば1分で出来ますし、個歯トレー印象法を使い、より精密に取ろうと思えば歯型をとる準備から含めると1本の型を取るのに1時間はかかります。それ以前に削る時点からマイクロスコープを使い精密な形成をして、境界線を明瞭にするための歯肉圧排という糸を何種類もするためにとてつもなく時間がかかります。

  2. この印象法は最近できた方法では有りません。私のインターンのころに名古屋のW先輩(丸森先生に師事されていた)のオフィスに見学に行って、カッパーバンド個歯トレー印象法(レジン個歯トレー法の前身の印象法で、印象を外す時に変形することがあリ現在では殆ど使われない)をはじめて見た時、学生実習で行っている印象の精度と比べてその精密さに驚き「卒業したらこの方法を習い、是非臨床に取り入れたい」と決めたのです。

    卒後開業医に勤務した時に、出たての新入りがやり始めたために先輩の先生たちに驚かれたものです(でも自分も習おうとする先輩はいませんでした)。それ以来個歯トレー法は私に欠かせないものになりました。このように以前からある印象法ですが、精度の点でこれを超える方法は現在ありません。                        

     

    以前ある講演会で大手の技工所でセラミスト(審美のセラミックのかぶせ物を作る技工士さん)と呼ばれる方の話が有りました。「個歯トレー印象法はトレーと支台歯が当たったり不鮮明だったりで良くない」という評価でした。当院の仕事をしてくれている技工士さんにこの話をしました。「その方は個歯トレー印象の症例をいくつ経験されたのでしょうかね、ひどい印象ばかり見ていればそのような考えになってもおかしくないですね」と笑っていました。彼は私が愛知県で開業している頃からのお付き合いで、最低数千件以上(いやもっと?)の個歯トレー印象の症例を経験している技工士さんの言葉です。他の歯科医院とももちろん取引が有るので「技工物を作っていても通常のヘビーボディ+インジェクションのシリコン印象と比べると精度がまるで違いますよ」とも言っていました

    そのセラミストは「最近はワックスを使って補綴物を作った事が無く、パソコンと向きあっている」と豪語されていました。その意味は(従来のかぶせ物は、ロストワックス法といって、本一本ワックス=蝋で彫刻刀を使って模型上でかぶせ物と同じ形の原型を作り、それを耐火模型の中に埋没して、高温でそれを焼却し,出来た空洞に金属を流し込む方法)では行わないでCAD-CAMオンリーだ=という意味です。

    彫刻刀を手にしないと言う事は、料理人が包丁を手にしないのと同じくらいの意味合いを持ちます、コンピュータに”おまかせ” でどうなんでしょうか・・・・・・・・・・???


    治療全てが省コスト、省力化していく中で真逆の方向かもしれませんがこれを超えるものが出来るまでは頑なに使い続けるのが我々のスタンスです。


 
歯肉圧排について
歯肉の中に「糸」を入れて行くこの地味な行程、実は保健診療と自由診療の質をける1つの要因かもしれませんそれほど重要な行程です。これにより歯肉は歯から離れ、歯の削ったところの境目(マージンといいます)が見えてきます。そして糸を入れる事でできた僅かな空間に型取り材を流し込みます。これではじめて過不足の無い、ピッタリ合った人工物(冠など)を造る事ができます。いくら材料が良くてもこの行程が無ければ境目が隙間だらけでプラークが簡単に溜まる様なかぶせものしかできません。歯肉に炎症が無ければ簡単ですが、ちょっとでも炎症があったり、歯肉の中まで進行してしまった深い虫歯の修復では難しくなり、省略されてしまう事が多いようです。しかしそれでは決して永続性のある治療はできません。肉眼で鏡で見れば奇麗に装着された冠と思うかもしれませんが、歯肉の中で歯と人工物がピッタリ合っているかはわかりません。ごまかしはいくらでもきくのです。しかし結果は数年後に現れます。歯肉圧排は省略しても患者さんにはわかりません。むしろやらない方が早く簡単に終わるので、患者さんには喜ばれるかもしれません。しかしそのために失うものは「信頼」です。合っていない冠がどういう事になるかは、かぶせものつめものが数年で取れたり痛くなったりした経験をお持ちかもしれませんが、それが原因なのです
             
※歯型を取る材料(印象材) 
 歯型を取る材料もいろいろあります。歯の大体の形が分かればいい「概形印象(アルジネート印象)」や保険診療の型を取る時に最も多く使われる「連合印象(寒天/アルジネート印象」などさまざまですが、私たちは自費の印象は「シリコンラバー系印象材」という材質的に優れた材料を使用しています。寒天に比べて高価ですが・・


1.細かいところまで非常にシャープに精密に型が取れる

2.印象材を消毒するための次亜塩素酸系の消毒薬でも印象面が荒れない

3.印象後時間がたっても寸法変化が少ない

という利点を兼ね備えています。反面、寒天・アルジネート連合印象というのは、海藻から出来る食品の寒天と同じ原料ですから、
1.印象が精密ではない 
2.印象面がもろく壊れたりちぎれたりしやすい
3.消毒で面が荒れる
  (もっとも、印象まで消毒する歯医者さんは稀ですが) 
3.印象後時間がたつほど寸法変化が大きい

という欠点があります。ですから自費の被せ物やつめ物の型を取るのに保険診療と同じ既製の型取りの枠+寒天・アルジネート連合印象でとるのは如何なものでしょうか?
保険と同じ最も簡便な方法で型どりをして、作る材料(セラミック、金合金)だけが保険と違えば自費になるというのは、何かおかしいと思いませんか?







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