日本での8020財団の統計では歯根破折が抜歯原因の第3位となっていますが、予防先進国スウェーデンのある統計では予防をしている患者群では断トツで歯根破折が1位となっています。日本でも予防歯科が確立されている歯科医院ではその確立度が高ければ高い医院ほど歯根破折が抜歯原因の第1位となっています。なぜなら、日本での抜歯原因の1位2位を占める歯周病や虫歯は予防および治療が可能な疾患だからです(難症例を除き)。すなわち歯周病や虫歯になったからと言って即すべてが抜かれる事はありません。
それに対して歯根破折は予防について確立されたものは無く、一般的には治療は不可能な疾患と殆どの歯科医師が唱え、そのほとんどが抜かれます。

スエーデンの例を見てもわかると思いますが、虫歯や歯周病の治療と予防に熱心な医療機関で有れば有るほど虫歯と歯周病での抜歯が少ない(=それらの治療後の再発・悪化がまれ)ために歯根破折が抜歯原因のトップに浮かび上がります。
それとは反対に患者さんの多くが虫歯や歯周病が原因で来院(初診患者は別として)している医療機関では歯根破折はそれほど大きな問題ではありません。歯根破折の患者さんは多いはずなのにそれ以上に虫歯と歯周病の患者さんに悩まされているからです。ある意味その医療機関の診療傾向が計れると言えるかも知れません。



2011.2.25.
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左下6番です。コアを除去した直後です。感染象牙質だらけで、保存は不可能かもしれないと危惧されましたが、患者さんはどうしても自分の歯を残してほしいと強く希望されました。
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探針(探る器具)で触ると隙間が動きます。矢印の所に完全分離の歯根破折が見られ、そこに肉芽が侵入しています。(この動いている様子をマイクロスコープで見せられて「抜歯しかありませんね」と説得(説明?)されたらうなずくしか無いかもしれません)
この症例では抜歯せずにおこなう内部接着法は適応できないので、抜歯して口腔外で接着してから再埴を行う口腔外接着再埴法になりました。
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ばらばらになっていましたのでそれを集めてモザイク合わせをしています。こんなにちっぽけなかけらですが必死に生きようとしています。一つ一つ大切に扱わなければなりません




当院では開業以来予防歯科と再発のない医療に全力を挙げて取り組んできましたが、開業してから12〜3年ぐらい経ったころからそれまで経過良好だった根管治療済みの歯が歯根破折を起こして抜歯に至る症例が出始めました。当院で一口腔単位の治療をおこない、定期的にメンテナンスに通うコンプライアンスの高い患者さんの中では抜歯を余儀なくされた症例はVRF(歯根破折)を除き殆どありませんでした。
われわれの予防プログラムに沿って熱心に通ってくれているにもかかわらず抜歯に至るというなす術もない現実に直面し自身の力不足を痛感する事はもとより、患者さんの悲しみと歯科医療への失望にさらされる事となりました。その想いが歯根破折の治療法を考えるきっかけとなったのです
。 

15年近く歯根破折の治療をしてきて様々な治療法を駆使してその殆んどを救済することができるようになって来ましたが、簡単な治療でない事はたしかです。同様な術式を部分的に聞きかじったり、模倣しただけで習熟度が足りないと難易度が低い症例でも治療が失敗したり再破折したりします。
この事からも歯根破折を起こしてから上の症例のように複雑な治療をするのではなく歯根破折を虫歯や歯周病のように予防することが出来れば患者さんにとって最も負担が少ないと考えてきました。

そこで歯根破折予防外来を立ち上げる事になりました。その対象となるのは
 40歳以上=
歯根破折好発年齢
 無髄歯(神経が無い歯)がある
に加えて
❸ メタルコア(金属製の土台の柱)が歯根に入っている 

 過去に歯根破折を起こした経験がある
 
歯ぎしりをする
 
対合歯(相手の歯)や隣の歯にインプラントが入っている
 
硬い食物嗜好(するめ、酢ダコ、ビーフジャーキー等々)
 激しい運動、肉体労働をする
          などに該当する方です

                  
特に❶+❷は歯根破折になる基本的リスク項目です。それに加えて他の条件が重なる方は歯根破折を起こす前にぜひ受診される事をお勧めします。


歯根破折予防外来の診療目的は
有髄歯(神経がある歯)を無髄にしない事、
無髄になってしまった歯については歯根破折を予防するために早期発見する事、歯根を補強する事と 生活習慣から破折を防ぐ事を第一とします



1.有髄歯を無髄歯にしない=予防歯科と再発の無い治療によってムシ歯を予防する


有髄歯は下記の2)を除き歯根破折を殆んど起こさないので、神経を取らない
ように有髄歯のままで温存することが最も大事です

1)リスク検査によってその人にあった予防処置と生活指導

唾液量
緩衝作用(お口の中の酸性やアルカリ性を中和する働き)
お口の中の虫歯に関係する細菌の量
食事回数、食事の内容、食べ物の嗜好
喫煙習慣、履歴
歯周病進行度
危険因子の数 

etc....

をテストし、その結果に基づいてあなただけの予防プログラムを作成します

2)マイクロスコープによる有髄歯のマイクロクラック(微小亀裂)の診査を行います。

その結果クラックや破折が有ればそれ以上拡大しない様に歯根破折の治療と同じ術式で破折部分の接着をします。クラックのすき間に細菌が侵入しているからです。もちろん神経は生きたままで保存します

あまり知られていない事ですが、有髄歯が表面の亀裂からいつの間にか神経が侵されて無髄歯になる症例を多く経験しています 

 

 有髄歯のマイクロクラック

症例H.O ♀ :2011.11.19.

最近何となく冷たいものがしみるーという主訴で愛知から来院、充填物を除去したところ、遠心の隣の歯とのコンタクトの部分にマイクロクラックが内部に向って侵入しているのを認めた。

即日に歯根破折治療と同様の手法でクラックの徹底的な拡大と接着を行い、神経を保存する事が出来ました。もう少しで歯髄までクラックが侵入するところでした。


矢印の所からクラックが入り、それに沿って細菌が内部に侵入し、その部分からムシ歯が進行しているのが認められる

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エキスカを使用して感染部分を取り除くとクラックがはっきりと見えて来ました
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この画像の様に歯髄に向かってクラックが侵入していきます。年齢にあまり関係なく若い人でもなったり、痛みが出た時にはすでに手遅れで神経が死んでいることもあります。ムシ歯が全く無い健康な歯でもおこります。それが進行すると下の画像のように有髄歯でも完全に歯根破折をおこします。早期発見して予防することが重要な理由です


有髄歯の歯根破折
症例:有髄歯でつめ物が無い
にも拘らず割れた小臼歯
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咬耗(ファセット=歯ぎしりで摩耗した平らな面)が著しい(真っ平らな)事は噛む力や歯ぎしり、噛みしめが強い事を現していますー要注意です

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症例:
有髄歯で噛み合わせに部分的にCR(複合レジン、プラスチック)が詰めてあって、割れた大臼歯
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3)再発の無い全顎の治療 =虫歯を再び作らないため

全顎にわたり虫歯の徹底的なチェックをして全てを健康な状態にもどすことが必要です.その際にー

エキスカを使用して感染歯質を完全に除去する

歯髄温存療法を駆使して露髄した(神経が出た)り、ピンクスポット  (神経に近くなって薄い象牙質を透かして歯髄がピンク色に見える 

 状態)になっても確実に神経を温存する

                                     ーのようなスキルと努力が重要


2.無髄歯の歯根破折を予防する

1)無髄歯の歯根破折の診査=早期発見
3Pテスト(当院独自の歯根破折診断検査)
マイクロスコープによる診査

CTによる検査


2)リスクの高い無髄歯に対して歯根破折予防

     1)で歯根破折が見つからなかった歯にはー 

金属製のコア(土台)や根管充填剤を全て取り除き

“ScoopOut&マルチ・ファイバーポストコア法”による根尖から歯冠まで一体の大黒柱の様なファイバーポストの集合体としての根管封鎖を兼ねた土台を再構築する

無髄歯なのに咬合面(噛み合わせの面)に部分的なつめ物がされている歯(=”歯冠ー歯根破折”を起こすハイリスクな組み合わせです)を上記と同様な方法で土台を補強したうえで、外側から全体を覆う必要が有ります。ワイン樽の”たが”の様に周りから囲むことで、外に広がることを防ぎ歯根破折を予防するためです。

 

 

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3)精密充填や精密補綴によるむし歯の再発と脱落の予防


 隙間の無いつめもの、かぶせものをする事によりその隙間から ムシ歯になったり、セメントが溶けて取れたりする事を防ぐ.

3.歯ぎしり、かみしめ症候群
診査、問診による原因の特定と治療
セルフマネジメントの方法と指導


4.歯周病の予防=歯根破折を早期に発見するため
歯根破折の症状の一つが部分的な歯周ポケット(歯と歯ぐきの間のすきま)の悪化です。
定期的に歯周病の検査をする(その医療機関でメンテナンスのプログラムが無く、その患者さんの定期的な検査の記録を蓄積していなければ、前回までの比較は出来ない)ことで歯周ポケットの深さを把握し早期に歯根破折を発見することができます。
しかし歯周病の状態が悪く (コントロールが出来ていなくて)どこもかもポケットが深ければポケットの深化による早期発見は出来ません。すなわち、歯周病を克服できる医療機関でなければこの診断方法は使えないということです。
健康な状態に維持していればある特定の場所のポケットが突然深くなれば「?」となり、その変化が早期発見に
つながるのです。しかし、歯周病の定期的な検査と言ってもかんたんでは有りません。というのは、
歯周組織検査の中で歯周ポケット検査は歯の周囲の一ヶ所最も深い所の測定結果を記載すれば保険請求の条件を満たすので、ほとんどの場合それですまされます。しかし歯根破折のポケットの現れ方は、特に初期の場合は、一ヶ所もしくは2ヶ所のそれもごく狭い範囲に突然出現するので早期発見が非常に困難です。
それにくらべて歯周病の場合は狭い範囲で突然現れる訳ではなく、多くは広い範囲で徐々に浅くなったり深くなったりします。当院ではトレーニングされた衛生士が一本の歯の周囲をwalking method といって、歯の周りを”歩くように”くまなく測定します。それも出現好発部位を頭にたたきこみ、「異常は無いだろう」ではなく、『歯根破折かもしれない』という眼で意識しながら発見につとめます。そのおかげで早期発見された歯根破折は数え切れないほどあります。

ご希望の患者さんは電話で予約するときに『歯根破折予防外来希望』の旨伝えて下さい。


 

冒頭のばらばらに割れていた症例の術後4年2ヶ月です、臨床症状もなく何不自由なく健康に経過しています。手前の4番(小臼歯)は歯根破折ではありませんが歯根破折予防のために   ScoopOut&Multi-Fiberpost法で補強されています。
メンテナンスに通われブラッシングも大変熱心な患者さんです。この歯が抜歯となっていたら、2本又は3本のインプラントか取り外しの入れ歯です。
あなたならどちらを選びますか
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  決して簡単な治療ではないが、このような難症例でも条件によっては救済することは可能です。これらを知っても「一般的には抜歯しかない」と唱える理由はどこに有るのでしょうか?

 

 

 

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