歯根破折(歯根縦破折、垂直性歯根破折=VRF)とは?
 『歯根に限局した縦の破折で、通常,根管の内側に発生し、それが歯根の表面へと外側に広がったもの』と定義されます
(Walton,R.E.1995)

そのひび割れの仕方には下図のように様々な形が有ります。(これらの症例は患者さんが保存を希望されなかった為止む無く抜歯したものですが、現在おこなっている治療法を行えば十分保存出来る症例です)

201011011454435321.jpg  201011011454435321_1.jpg
 
たったこれだけのひびでも口の中では右の写真のようにひどく腫れるのです

 別の症例

 1_2010102219083429607.gif  1_201010220727118571_1.gif


歯根破折の症状は?
  歯根破折になったら一般的には
1.歯肉が腫れる
2.フィステル(歯肉の膿みの出口)ができる
3.かみ合わせると痛い

というような症状が出ます。しかし、1、2のような症状が出てからでは、症状は中等度以上の段階に進んでいます。その頃になるとレントゲン写真上でも明らかな特徴(X線写真での歯根破折歯の特有な画像8パターンがあります)が見られます。
しかしもっとも早期に発見出来るのが3の「噛み合わせると痛い、違和感が有る」という症状です。ごく初期にはレントゲン上の変化はほとんど有りません、CTでもしかりです。

もっともこれらの症状はその他の虫歯や歯周病の時にもよく見られる症状であることが診断を難しくする原因となります。あらゆる疾病に言える「早期発見・早期治療」は歯根破折歯の治療にも最も必要です。手遅れになるほど治療が難しくなるからです。


歯根破折(垂直性歯根破折=VRF)の治療法
ScoopOut &Multi-Fiberpost Technique
財団法人8020 推進財団による『永久歯の抜歯原因調査報告書』によると、歯周病、う蝕に次いで抜歯原因の第3 位(全体の11.4%)に破折が挙げられています。しかしスウェーデンのアクセルソンらによる調査では条件こそ違いますが、抜歯の原因の62%が歯根破折で、もちろんダントツで一位でした。それは予防の先進国だからです。それと同様に、予防がきちんと行われている医療機関では歯周病や虫歯が克服されているので歯根破折が抜歯原因のトップに躍り出るのです。
当院の予防プログラムに入り定期的に通う患者さんもそうですし、横浜臨床座談会の丸森歯科医院でも同じ傾向のようです。ちなみに治療主体の医療機関ではほとんどの治療がムシ歯、歯周病に対する対症療法に追われているために歯根破折による抜歯は深刻な問題とはなりません.ある意味その医療機関の診療傾向を表すと言えるかも知れません。

このように歯根破折の治療法としては、ほとんど抜歯(治すのではないので治療とは言えませんが)が主体であることは、むしば、歯周病の学問に比べて、歯根破折についての治療がこの四半世紀ほとんど普及していないことを示しています。高齢になればその比率が増えることからも、治療法の確立と普及が望まれてきました。

現在当院でおこなっている 治療法は
 A.抜歯して行う口腔外接着再植法(=再稙法)
 B.抜歯しないで行う
根管内(口腔内)接着法
 by-ScoopOut &Multi-Fiberpost
   Technique」

の2つがあります

(注: ‘06年に発表した根管長測定器併用根管内部接着法はもうすでに過去の術式となり、マイクロスコープが導入されてからは Bの新しいオリジナルコンセプトの術式となっています。しかしこの療法も明日にはお蔵入りとなっているかもしれません。1分1 秒、より進化した医療を目指しているからです)

割れている状況と条件により又はのそれぞれ単独か
BA または ABを選択します。

の再稙法は単根( 歯根が1本)で、破折部分が完全に分離しているときは抜くのは簡単ですが、厄介なことに、最も予後が期待されるべき=まだ分離していなくて、おまけに歯根周囲の骨の破壊が少なく、がっちり骨にうずまっている初期〜中期の症例=に対しては、抜歯する際に伴う歯根膜の損傷、または歯がさらに割れる危険が伴います。
特に奥歯(=大臼歯)で,
❶ 根が曲っている, ❷ 根が開いている 
そのときは割れる確率が大きくなると考えなければなりません。

このことからも治療上最も難しいのがこのタイプと言えます。
その場合選択肢はB
しかありませんが歯周組織の改善が不良な場合は後日外科処置 が必要となることが有ります。

Bの口腔内(根管内)接着法は抜歯に伴う危険性はなくなる代わりに、の歯根湾曲している場合は根尖まで確実に拡大してファイバーポストを根尖まで入れることがより困難になります。またそれに加えて根管内からの破折線の歯根表面への拡大が内視鏡的な治療となるので に比べてはるかにテクニックセンシティブと言えます。しかし当院では極力抜歯をせずに治療ができればあえて困難なBを選択します。

しかしA,B ともにもっとも重要な事はすべての行程が完全になされないと、歯根が一体化( モノブロック)とならない為に再破折または再感染を起こす事です。
 歯根破折治療の予後を左右する大切なメンテナンス
さて歯根破折の治療が無事終わればそれで万歳かと言えばそうではありません。死を宣告された重病の後の養生が予後を左右するのと同様、治療後のメンテナンスがとっても大切なのです。






                                                  To be continued・・・・・・・・・・・・・・・・・


以下のような症例をみてあなたは抜歯せずに助けることができると思いますか?
これらの歯は現在痛みとか不快感は全くなく、以前同様正常に機能しています
もしもこの歯が抜かれていたら・・・・・・
2010110114412018989.jpg
2010110114412018989_1.jpg
  1. 取り外しの入れ歯か?
  2. 両隣の歯を削りブリッジにするか?
  3. ドリルしてインプラントを入れるか?
・・・・・・しか有りません、あなたならどちらを選びますか?




症例1:根管長測定器併用根管内部接着法を開発し初めた2006年のごく初期の症例です。今考えるとマイクロスコープもCTもなく器材も術式も不十分でしたが、たった一本の歯でも抜かないで救済したいという使命感だけはあふれていました。
歯根破折発症時レントゲン写真(2006.4.25.)
060424.jpg
レントゲン上ははっきりした病巣はなく矢印の部分に少し変化が見られるだけですが、歯肉を剥離すると下の画像のような大きな骨欠損が有りました(抜歯再植はしていません)

2013112804325323702.jpg
頬側(ほっぺ側)の歯槽骨が溶けてなくなっています。歯根に縦に走るクラックが見えます。


この歯は当院に初診で来院された時(1998年)にすでに他医で根管治療がして有りましたが、予後が不良のため’98.10月当院で再根管治療をしました。
その約8年後に突然歯肉が腫れて来院されました。当時も今と同様ほとんどの歯科医師が「歯根破折は抜歯しかない」と唱えていた。自分が根管治療した歯でそれまでは全く予後に問題なく経過していたのに歯根破折を予防出来なくて患者さんに本当に申し訳ないという思いで一杯でしたその悔しさがこの療法の後押しをしてくれたといえます。
再根管治療時の根管長測定レントゲン写真(1998年)
981019.jpg
(開業時から全ての症例でラバーダムをかけています)
2根管の根管長を確認するため、偏心撮影(ずらして撮影する方法)をしています。写り方が他の写真と違うのはそのためです。




根管長測定器併用根管内部接着法
79ヶ月後

VRF.png
隣の第2小臼歯は5月に歯根破折予防のためにScoopOut&Multi-Fiberpost法で予防的に根管治療を始めたところ歯根破折が発見されて、「ScoopOut&Multi-Fiberpost法による根管内部接着法」に切り替えて救済することが出来ました。臨床的にも自覚的にも症状は有りませんでしたが無髄歯は加齢とともに着実に歯根破折の準備をしているという実例です。
一度歯根破折を起こした患者さんは咬合、食物嗜好、歯ぎしり、習慣、生活様式等が変わらないため別の歯にも発症することが多々あります。歯根破折予防必要な理由です。

10年後
KeynoteScreenSnapz011.jpg














奥の6番も歯根破折予防のためにScoopOut&Multi-Fiberpost法で接着をしました、

11年後(最新)

この患者さんは農業で7月は出荷の最盛期で忙しい中メンテに来られます.この治療を行ったのが2006年7月の七夕だったので我々も記憶しやすく、七夕前後には予後確認の写真を撮影しています。
ScreenSnapz343_1.jpg

この症例はScoopOut法の前のまだ発展途上であった旧術式ですが、すでに11年以上無事に保存されています。 "歯根破折=
すべて即抜歯"を宣告する理由は何があるのでしょうか?
術後11年ではだめなんでしょうか? 単なる延命療法なのでしょうか? 
もちろん難症例の中には当院でも残念ながら救済できなかった症例もあり、
100% 救済できるとは限りませんが、患者本人の「抜きたくない、助けて欲しい」という声に耳を傾けないで、またこのような治療法を受ければ、助かる可能性がまだ有るという*情報すら提供しないで「すべて即抜歯」は有り得ないと考えます.自分の歯を一つの生命と考えて大切にしたいと考えている患者さんにとって、そのような情報も全く知らされないままで抜歯をされたら少なからず問題なのではないでしょうか?


この患者さんは地元の農家で、農繁期は早朝2時〜3時頃起床で出荷と過酷な毎日ですが、プラークコントロールも優秀(PI=汚れの面積=が常に一ケタ台)で定期的にメンテナンスに来られています.
ある日患者さんがぽつりとつぶやきました『この歯は半分先生のものみたいですね』と。
患者さんと2人3脚で歩めることほど歯科医師冥利に尽きることは有りません、
T.Yさん、これからもずーっとよろしく・・・・・・・・・・・



ScreenSnapz088.jpg


症例2:口腔外接着再植法


初診時レントゲン 写真
2010.12.1.

2011082001275713659.jpg
1ヵ月前に硬い物を噛んだときに「バキッ」と音がしました。心配になり近所の歯科医院を受診してレントゲンを撮ったところ、「歯が割れている」と言われました。
「治療法は抜歯しかなく、その後はインプラントが一番お勧めです。両隣の歯は無傷の歯なので削ってブリッジにするよりはインプラントの方がいいですよ・・・」と説明が続きましたが、わたしはどうしても自分の歯を抜きたくなかった・・・・・・・・

※口腔外接着再植した後
ScoopOut&Multi-Fiberpost 法で内部接着
        10ヶ月後

DSC_0034.40.jpg


術後5年8ヶ月後(最新)
KeynoteScreenSnapz012_1.jpg
「八ヶ岳歯科に通う前は抜くしかないと言われていた歯が、今現在何の問題もなく噛むことが出来ていることに本当に感謝しています」「今回、自分の歯が歯根破折したことでいろいろと調べたところ、歯が折れてしまい抜歯をしてインプラントやブリッジにしている方が思った以上に多いことに驚きました。もっと多くの歯医者さんの先生方、もっと多くの患者さんにこのような治療法があることを知ってほしいと思います」
                                                                                    仙台 M.H

症例3:口腔外接着再植法その2
 KeynoteScreenSnapz018_1.jpg   KeynoteScreenSnapz014_2.jpg 
 
 
                                                                                                                                              To be continued・・・・・・・・
 
  


附:まだ多くの症例をお見せしたいのですが、発表前の症例となりますので、ネット上での公開は控えさせていただいています.ぜひ講演・論文の中でご高覧ください
2009年度日本接着歯学会シンポジウムでシンポジストとして講演を行ったときの講演抄録の抜粋
(2009年9月27日 於・大阪歯科大学)を紹介します


(注:内容・数字は2009年9月時点でのデータによりますので、改良されて今現在おこなっている
ScoopOut&Multi-Fiberpost法とは異なります)

八ヶ岳歯科 天川丹

私が予防歯科をはじめとする包括医療を実践してきて自分自身の研鑽では及ばない難題が歯根縦破折(以下VRF)であった。
人口3300人の寒村で開業して123年を経たころから過去に当院で歯内療法を行った症例の中からVRF を来し抜歯に至る症例が目につき始めた。
当院で一口腔単位の治療をおこない、定期的にメンテナンスに通うコンプライアンスの高い患者さんの中では抜歯を余儀なくされた症例はVRFを除き殆どなかった。
予防プログラムに沿って熱心に通っているにもかかわらず抜歯に至るというなす術もない現実に直面し患者さんの失望はもとより、自身の力不足を痛感させられた。
VRFは抜歯原因の第3位どころか、条件によっては第1位にならんとするにも拘らず一般国民が殆どその本態を知らない事に加え、歯科医師自身にも関心が無い事やその病態、診断、治療法が浸透していないことには驚きである。マスコミも歯科界もう蝕・歯周病・インプラントに比べてVRFに関してはほとんど取り上げることもなかった。う蝕・歯周病に次ぐ第3の歯科疾患として、顎関節症やほかの疾患も挙げられているが、それらとVRFが決定的に異なるのは、日本のみならず世界中でほとんどが抜歯という最悪の結末を迎える点である。

これらの事からもむしろVRFを第3 の歯科疾患とする方が適切ではないかと考える。
VRFの治療法は以前から先達が開発してきたにもかかわらず、相変わらず抜歯が主体であることはまだまだ臨床家には一般的ではないことを示している。その原因にはまず治療法の存在すら知らない、知っていたとしても、術式が複雑、設備、予知性が無い・・等々の評価が有るかと思うが、
術式や必要な設備から言えば、先鋭的なインプラントロジストの様々な術式や、その設備等と比較してもまだ少い努力ですむであろう。
抜歯に難儀するような骨植のまだ強固な歯をVRFが原因で抜歯することは、患者の(歯科医療への)失望や懐疑は勿論、内心忸怩たる思いの歯科医師も少なくないのではと考える。



 参考文献

白石和仁:咬合崩壊を伴う重度歯周疾患に対する包括的アプローチ、日本臨床歯周病学会誌.200422105-110


「包括的歯科治療においてインプラントは、咬合の維持・安定を得る為の1つの治療のオプションにすぎない.また、インプラントが残存天然歯を保護する役割を担うだけではなく、残存歯もインプラントを保護する役割を担っている。故に的確な残存歯の処置無くしては、両者の長期的に安定した共存は望めないと考えている。現在、オッセオインテグレーションタイプのインプラントの成功率は飛躍的に向上し、日々の臨床のなかで予知性の高い治療法として確固たる地位を確立しつつある。しかしその陰では、10年前で有れば保存されていたであろう天然歯が、いとも簡単に抜歯されインプラントにとって替わられていることも事実である。そのような時代だからこそ、私たちは今一度歯科医療の原点に立ち返り、歯の保存を真剣に考えるべきではないだろうか」

       



           photo-025.jpg Real_Mocca.jpg