エキスカとはexcavator(エキスカベーター)の略で、私にとって"再発の無い医療"を目指す上で欠かせない重要な器具の1つです。(excavate=〜を掘りおこす、トンネルを掘るという意味)
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アメリカから来院された患者さんから頂いた絵本にこんなのがありました.日本での通称名(ユンボ、バックホー)とはまるで違うのを初めて知りました.ムシ歯を掘り起こすのに最適ですね。
(excavator=掘削機(者),歯科用エキスカベータ(穴くり器))
 研究社 新英和中辞典


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ちなみにアメリカでの元祖バックホーはこれのようです。和製英語と思っていましたがそうではありませんでした。ショベルカーの後ろにくわを付けているから名付けられたのでしょうか?........



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この写真のような形をした器具でスプーンのような形をしている為にスプーンエキスカと呼ばれています。ほとんどこの形の物を使用します。
 
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患者さん毎に交換して、使用のたびに毎回オートクレーブで滅菌するためにはこのように多くの本数が必要になります。これでもまだ全ての本数には足りません。滅菌中のものと滅菌バッグに入っているもの(オペ用のエキスカ)は除かれているからです。

これで感染象牙質をカリカリと削ぎ取ったり、スプーンのようにすくい取るのがこの器具の役割です。この器具は何も目新しい器具では有りません。形こそ変化しながらもずいぶん昔からあった器具なのです。しかし以前から有る療法といっても、それが巷間行われているかと言うと他の例に漏れず、必ずしもそうではなさそうです。というのはやはり手間ひまが格段にかかるという欠点が有るからです。

ご存じのように虫歯菌は酸を出して水晶と同じ硬度のエナメル質を溶かしたり、象牙質をぼろぼろにします。そのぼろ象牙質の事を軟化象牙質(感染象牙質、感染歯質)と呼びます。ぐさぐさに軟らかくなっているからです。
軟化象牙質が取り残されていると必ず再発します(と言っても、再発とは一度治った後再び病気が発生するという意味ですから、病巣が取り残されていれば治ったとは言えないので再拡大すると言う表現が適当かもしれません)。がんの治療と同じです。がんの手術時にがん組織を取り残せば再発したり転移したりするのと同じです。

感染している部分と健康な部分の境界のデリケートな感触は回転器具だけでは決して手に伝わりません。
ハンドインスツルメント(手用器具)のみが削っている時の感触が伝わるのです。この器具では健康な部分は削る事は出来ません、硬すぎるからです。
しかし回転器具では健康な象牙質も容易に削れてしまいます。その結果、健康な象牙質を削りすぎたり、神経に穴をあけたり、逆に手かげんして感染部分を取り残したりする医療過誤が起き得ます。
齲蝕検知液(カリエスディテクター、カリエスチェック等の名称が付いている)と言う虫歯の部分が赤く染まる検査薬も使いますが、それとて万能ではありません。
グレーゾーン*(このページ最後に解説あり)があるからです。結構頻繁に検知液で染まらない部分に明らかな虫歯が発見されることを経験しています(グレーゾーンどころではなく、レッドゾーンの明らかな虫歯です、それを当院では”う蝕検知液の嘘”と称しています、すなわちう蝕検知液を使いましたよ、それで安心ですよとは言えない、それが免罪符ではないということです。理論値と臨床では乖離がある一例です)。
それらからも概略はそれで調べながら取り除いたとしても、やはり最終的にはエキスカで取り除かなければ取り残しが必ず出ます。う蝕検知液のみで終わる事は当院ではあり得ません。
 

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(上画像)感染している部分は黒いかと言うと決してそうでは有りません。白色(〜薄茶色)のむしばはよく有ります。真っ黒の虫歯よりも白い虫歯の方がずっと悪質で、神経まで進行している事が多いのです。

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感染象牙質を徹底的に取り除くと最後には硬い象牙質が出てきます。それは上の画像のようにつるつるして光っています。これ以上はエキスカでいくら削ろうとしても刃が立ちません。

しかしそこまで至るには地味な治療の繰り返しですごく時間がかかります。タービン等の回転器具で削れば早いし手も疲れません。しかしマイクロスコープを使いエキスカで除去する場合、虫歯の範囲が広く深い時は麻酔から始まって、神経を傷つけないように慎重に感染部分を取り除くのに30分以上かかります。.
おまけに、エキスカを使う時には左手を支点として切削すれば力が入りますが、マイクロ使用時はミラーを持つために
左手がふさがります。そうすると当然右手のみでの使用となり余計に負担がかかるので手が痛くなる程です。結果的にその日は歯髄の保護処置のみで終わる時も有ります。

時間がかかった方がいいなんて決して思っていませんが、厳密な再発の無い医療を行うためにはどうしても時間がかかる事は否めません。患者さんにはその点を理解いただければと思います。

当院では感染歯質の除去をする時はその様子を必ず患者さんに見てもらっています。マイクロを使用する時はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着してリアルタイムで見てもらうか、ハイビジョンか3CCDカメラで録画したものを治療後に見ていただきます。マイクロを使わない場合でも必ず手鏡で感染歯質のある状態から始まりエキスカでカリカリ除去している様子、取り除いた後のピカピカの状態、神経の保護処置をした歯の中、形を整えて型取りする寸前まで全て公開しています。時には、とった型まで見ていただく事も有ります。(これらは最近始めた事ではなく開業して以来ずっと同じ事を行ってきました)
 当たり前の事ですがすこしでも虫歯(感染歯質)が残っていたら自信を持って見せることが出来るはずもありません。しかしそれが患者さんへの完全な治療の証であると同時に自分の緊張を強いる意義も有るのです。
HMDも手鏡も操作上治療しづらいし、説明しながらの治療はそれだけ時間がかかる事は確かですが患者さんにとっては自分の医療がどうなされているかを知ること、病巣が徹底的に取り除かれている状況を知っていただくいい機会です。
口先で「病気の部分を完全に取りましたよ」というだけでは不十分だと思っています。



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闇から闇の医療ではなくすべてを公開する事ではじめて患者さんのための医療(患者参加型医療)がなされると考えています。その点マイクロスコープを使う事により我々のみでなく患者さんにとっても(今まで)まるで見えなかったものが(強拡大や画像の保存、公開により)見えるようになって、闇から白日のもとへ現れたと言えます。そのかわり従来の何倍もの時間がかかるようになった事と、治療中の緊張がより高まる事となりました。

虫歯菌が残っていればジルコニア、オールセラミックなり
、金合金冠なりどのような材料で詰めようが被せて密封されようが、中では歯を溶かしながら生きているのです。
すごく厄介な細菌なのです。
ですから自分の歯を残そうと思ったらまず感染歯質を徹底的に取り除かないと再発(再拡大)します。それは根管治療の時も全く同じです。神経を取ったり再根管治療時にも虫歯の部分が残ったままではいくら素晴らしい根管充填がしてあり根管治療自体の再発が無くても、虫歯が拡大してぼろぼろになってかぶせ物が取れたり、付け根から折れたりします。
ScoopOut Technique は根管治療においてこの感染歯質(と感染物質の隠れ家)を徹底的に取り除くために考え出された治療法です。

ここまでお話しすればいかに感染歯質の徹底除去が殆どの『再発の無い歯科医療』のための最低条件でかつ必須条件であるに気づかれるかと思います。
すなわち新しい器具、道具、材料、薬や新しい療法にとびつく前にすべての歯科医療の最初にクリアされているべき事なのです。このエキスカベーターによる感染歯質の除去も、個歯トレー印象法、ラバーダム、エンドチューブ、マジックマージン、オルタードキャスト法・・・と同じく古くは150年前から存在するベーシックな療法や考え方の1つなのですが・・・・・・冠せ物やつめ物を外すと多くの症例で感染歯質の取り残し、取り忘れ(?)が見られます(!)・・・・・・・・・再発しても何ら不思議もありません.


*グレーゾーンについて
象牙質う蝕(ムシ歯)は、う窩側壁(ムシ歯の穴の壁)では軟化部(感染軟化象牙質)と健全部の境界が明瞭である。   しかし窩底部(ムシ歯の底の部分)では赤染部(う蝕検知液で赤く染まった部分=感染軟化象牙質)、不染部(非感染軟化象牙質)、透明象牙質(生体防御層)、健全象牙質ーと連続的に変化します(グレーゾーンのことです).連続的に変化する齲蝕象牙質をう蝕検知液だけで染め分ける方法には限界がある. (MANI資料一部改変)

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                  YDMエキスカベーターCDR説明文より引用