高速オートクレーブと滅菌バッグについて
近年10分未満で滅菌が終了する高速オートクレーブが出てきました。うたい文句としては、高速で滅菌のサイクルが終わるので、高価なタービン類を数多く用意しなくても使い回しができるという謳い文句です。

これとても患者さんごとに滅菌しているということにはなりますが、例えばレストランで数組しかない食器でお客が終わるたびに裏の厨房で洗って次の客に出すのと似ているかもしれません。しかし急いでいればいい加減に洗ったり、洗い残しが有るかもしれません。

学生時代の話ですが屋台のラーメン屋の裏で同じバケツでどんぶりを次々と洗っているのを見てしまった(!)事が有りました。なにかいけない物を目撃してしまったというような後ろめたいものを感じ、あまりまじまじと見る事がはばかられる気がして、おやじと眼を合わせないようにその場をそそくさと立ち去りました。なぜかそのシーンを今でもはっきりと覚えている事が不思議です.星ヶ丘のバスターミナルでその近くに同級生が下宿していました。試験期間中、数人で合宿していた時の夜食だったので真夜中でした。タクシーのドライバーなどが集まり夜中でも混んでいて、評判のラーメン屋でした。今思えば二十歳そこそこの学生ながら、それを問題視した事が今の滅菌観念のルーツだったのかも知れません。

どのようなシステムでも100%滅菌が完全ということは言い切れません。そのリスクを減らすためにも少ない器具(どんぶり)を使いまわすより、患者さんの人数よりも余裕をもった数量を用意し、余裕をもったサイクルで順次使用するほうが、はるかにリスクが分散するのは明らかです。

当院では午前と午後の二回に分けて、使用したすべての器具を大型高圧蒸気滅菌機と高圧アルコール蒸気滅菌機、乾熱滅菌機、EOGガス滅菌機、グルタールアルデヒドで夫々の対象とするものに応じて使い分けて滅菌しています。一般外科で使用されるのと同じ38.5Lの超大型の高圧蒸気滅菌機は121℃2気圧で40分間かけて行います。

滅菌工程が終了後、滅菌が確実に終了しているかを滅菌前にカストに貼り付ける
滅菌インジケーターテープの変色で毎回必ず確認してから使用しています。
この大型滅菌機は歯科用ではなくて、一般医科用のもので同じ容量のものを開業以来2台目を使用しています


治療中に使う基本セットのステンレスのトレーはもちろん、外科手術で使う大型のステンレスのトレー、Ope用の器具の収納の大型角カスト、ガーゼ、綿花を滅菌する
φ27cmの丸カストを2個同時に滅菌できる超大型の器械です。(小型のオートクレーブしか設備として無ければそのような大型のトレーや容器は滅菌できないということです。その中に入れる器具や材料がいくら滅菌されていても、容器が滅菌されてなければそこに入れた瞬間に滅菌の環(下記)は切れます・・・)

3人でやっと抱えることができるほどの重さで、修理とかメンテナンスには費用が小型の何倍もかかり大変なことは確かです。
その場で出来ない修理であればメーカーへ送らなければならず、メーカーから来た代換えの貸出機と交換に木枠に納めてそれを送ることになります。それも男手が必要な程やっかいなことです。
またオートクレーブは水道水でも作動させる事が出来ますが、当院では10年以上前から毎回局方の「精製水」をわざわざ使用しています、念のためです(これもオーバースペック[=下記]と言われるかも知れません)


 オーバースペック
感染予防対策にしても日常の診療にしても『オーバースペック=過剰な性能=
”やりすぎ”』は良好な結果や安全性を得るためには絶対に必要なことです。
一般的には(この言葉は保身?、自己防衛?のためには最も有用な言葉かもしれない)これぐらいで十分だろうと言われている基準で良しとして行っていても想像を超える事態が起きた時には対応出来ない可能性はいつもつきまといます。東北地震の津波の想定もまさにそうでした、それで「想定外だったからあきらめる、許されるだろう」というのは医療機関でも許されないと考えています。

八ヶ岳歯科のすべての医療、院内感染予防対策を始め個歯トレー印象法、ScoopOut & マルチファイバーポスト法、エキスカベーターによる感染歯質の除去、マジックマージン等々すべて・・・・・・私の医療を見学したり、見聞きした人は「マニアック、
奇特な人、やり過ぎ、不必要、趣味、オタク、過剰診療、無駄、果ては、こんな僻地でアホか?・・・・・・・・・・」等々(。-_-。)と表現してきました。
オーバースペックで医療を行うには
まず初期投資/時間/マンパワー、そして必要経費/
ランニングコスト/がはるかにかかります。しかしあえてそれをやることで、良好な臨床成績やそのような想定外なアクシデントに対応出来てきたのだと自信を深めている今日この頃です
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EOGガス滅菌機

酸化エチレンガス(20%)、液化炭酸(80%)、の混合ガスを使用し、滅菌時間はエアレーション時間を含めるとなんと”23時間!”もかかります。
当然使い回し的な少ない器具では間に合わないので数量に余裕が無いと、滅菌する事は出来ません。
またランニングコストはガスボンベ1本が数万円する等、他の滅菌システムに比べると格段に高価です。
つい先日故障した時は修理に安価なオートクレーブが1台買える程かかりました(_ _lll)。
このような事からもEOGガス滅菌器を備えている歯科医院はほとんど稀なのが現状です。
  
   


しかし、歯科治療で多用する、プラスチック製品、ビニール系、ゴム系、粉末の薬、紙製品等水分を嫌うものや高温の加熱が出来ないものなどはこれが無いと完全な滅菌は不可能です。
また最近の「ホルマリンガス”殺菌”器」では”滅菌”は出来ません。

ドレープの滅菌について
マイクロスコープ等の大型器械は外科処置をするときは"滅菌済みの覆布(ドレープ)"が不可欠です。それは布とは言うもののビニールの大きな袋をすっぽりかぶせる事です。外科処置中は完全滅菌の手術用の最高レベルで全てが進行します。それが術中の感染予防と、術後の良好な治癒を約束するからです。マイクロサージャリー(顕微鏡下の外科手術)では術中にマイクロスコープのハンドルやスイッチ、フォーカスのダイヤル等を術者が触れ調節をします。と言う事は、空気清浄機の完備した専用の手術室で、いくら術者が完全滅菌の手術着を着て手術用のグローブをはめていても滅菌されていないハンドルやスイッチ類を触れればその瞬間に滅菌の環が切れてしまうのです。

すなわち他のものをいくら滅菌レベルで行っていても全く無意味になるという事です。ドレープをするどころか全くドレープもしない裸のマイクロスコープを操作することは床に落ちたメスや前の患者さんに使用したメスでお腹を切り開くのと同じだと考えます。(マイクロスコープを扱っている様子をホームページで公開している画像がよくありますが、そこでドレープもなく裸でハンドルを触っている場面が有れば「えーっ????」と思わなければなりません、それ一つでその医療機関の感染予防の考え方(清潔・不潔の観念)とレベル=医療に対するスタンスがくっきりと浮かび上がると言えます)
つい最近、以前はビニールの筒をマイクロスコープのハンドルにだけ被せていた某先生のHPをたまたま見かけたらやっと(!)少し大きく袋がかかっていました・・・(^◇^;)患者の目を気にされたのか、感染予防に目が覚めたのかどちらかは定かではありませんが。

やっかいな事に、ビニール製のドレープの滅菌はEOGガス滅菌でしか出来ません。オートクレーブでは高温でたちまち溶けてしまうからです。
アルコールでいくら拭いてもそれは”滅菌”では有りません、せいぜい”消毒”と言うレベルです。そのレベルでは手術には全く役に立ちません。アルコールで拭いた位では細菌が少し減る位で完全に死滅はしないからです。

毎日の様に外科的な処置が行われる歯科医院では滅菌した器具での処置が頻繁に必要とされます。しかし、このようにそれを真剣に行うと大変なコストと手間がかかる事は避けられないのです。





滅菌の環  医療機関全体での滅菌管理はチェーンのように一つの環として実践しないと一ヶ所でも滅菌状態がなされていないと全体が失敗するということ
です。全か無かの法則と似通っています。

よく笑い話で床に落としたお菓子を「5秒以内に拾えば食べてもだいじょうぶ」とか言いますが、滅菌の環は5秒どころか非滅菌のものに触れた瞬間にその物は不潔となり、環は切れてしまうのです。

たとえばオートクレーブで完全滅菌された器具を取り扱う器械鉗子は当然滅菌されているのですが、それを
誤って床(に限らず、テーブルとか、白衣にふれたとか)に落としてしまったすぐに拾い上げたので大丈夫だろう(もしくはちょっと白衣に触れただけだからいいだろう)とこっそりそれを使い続けたスタッフ(コ・メディカル)がいたとすれば、それ以降その鉗子を使って取り出した器具は非滅菌の不潔な状態になり続けます.その取り出した不潔な状態の器具を滅菌エリアに滅菌した器具と混ぜこぜに置いたら、それに触れた他の器具も汚染されて行きます。連鎖反応で次々と・・・・・・
厄介なことは清潔か不潔かは見た目では全く分からないということです。不潔になった瞬間にその器具全体が真っ赤にでも
色がかわればいいのですが・・・


                                                To be continued・・・・・

 

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滅菌バッグについて
器械器具を滅菌バッグにヒートシールして入れて患者さんの目の前で開封(これが大事だそうです)して使うことをすすめる患者さんに滅菌をしていることをアピールできる点で感染予防セミナーの講師がいました。
滅菌バッグは滅菌後3カ月 程度の長期間保管できるという利点があります。しかし滅菌後すぐ使用する基本セット(ミラー、バキューム,探針、ピンセット等)やタービンをわざわざバッグにヒートシールすることは保管の時間がほとんどないわけですからまさにパフォーマンスに過ぎません
見た目ではなく、見えないところでもいかにきちんとした事が実際に出来ているかではないでしょうか。

当院でも使用の頻度の低い器械・器具類は
滅菌バッグにいれてからヒートシーラー(下の写真)で密封後滅菌、保管していますが、滅菌後すぐ使用する器械器具は清潔な(滅菌した)保管場所から滅菌ピンセットや鉗子で取り出しています。
パフォーマンスの為にわざわざヒートシールした滅菌バッグをその直後に破って使用する位の手間暇が有ればもっと他の感染予防対策に時間と費用をかけたいものです。


参考文献:「無菌性有効期間(安全保存期間)を正しく理解して保管する」(日本手術医学会)
滅菌後の安全保存期間は滅菌法、包装材、取扱法によって影響を受ける。保管場所でも扉の有無、清浄度、温度、湿度により異なるとされている。一般的には時間依存型無菌性維持(time related sterility maintenance: TRSM)の考えにて金属缶で1週間、綿布2重包装で2週間、不織布で1カ月、滅菌バッグで3カ月、滅菌コンテナで6カ月とされている。

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医科用大型ヒートシーラー